日本語の特徴の一つと言えば豊富な人称代名詞ですが、ベトナム語も負けていません。市販のテキストで紹介されている人称代名詞だけでも
tôi:1人称。男女問わず使える「わたくし」
ông:年輩の男性に対する2人称
bà:年輩の女性に対する2人称
anh:同年代の男性に対する2人称
chị:同年代の女性に対する2人称
em:年下の男女に対する2人称
と、これだけあります。 実際に使われている人称代名詞は他にもあって、
mình:tôiよりも若干カジュアルな1人称。非常に親しい間柄では2人称としても使われる。
tớ:親しい間柄での砕けた1人称
cháu:年輩の人と会話する際の1人称
bạn:知り合いに対する2人称
cậu:親しい間柄での砕けた2人称
bác:年輩の男女に対する2人称
などなど枚挙にいとまがありません。 使い分けは「年輩」とか「同年代」と一応の区別があるように、年齢がメルクマールです。このためベトナム人は知り合ったら相手の年齢を探るのが常のようです。最初は探り探り"anh "と呼んで、年齢が判明して相手が年下なら"em"に切り替える、というように。
しかも、ベトナム語の1人称、2人称というのはあくまでも相対的な区別で、例えば、"anh"や"chị"は相手が年下であれば1人称にもなり得ます。したがって、
Anh yêu em.
このフレーズは、男性が発話者であれば、「僕は君を愛している」だし、女性が発話者であれば「あなたは私を愛している」になります。複雑です。
この人称代名詞の関係で、『ニューエクスプレスベトナム語』 というテキストで面白いことを発見しました。ベトナム語は年齢によって人称代名詞を使い分けるという特徴があるからか、このテキストでは登場人物に年齢を設定しています。主な登場人物である日本人留学生の「たけお」は22歳、大学事務職員の「マイ」は21歳という設定です。
2人は第1課で出会った当初は、 anhとchịで呼び合っています。その後、第5課でたけおはマイを映画に誘い、第15課ではたけおがマイの自宅に電話をかけてお母さんと話したり、第17課では遂にたけおはマイの自宅に招待され、手料理を味わいます。ここまでは一貫してanhとchịです。ところが、第18課でたけおがマイのことを"Mai"とファーストネームで呼んだり、"em"と親しい女性に対する2人称で呼んだりし始めたんです。これは自宅に招待された後になにかあったとしか思えません。テキストでは残念ながらその後のたけおとマイについてのスキットがないので、2人がどうなったか学習者は知る術がありません。
テキストのスキットまで興味深く読めてしまうベトナム語。面白い言語です。
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